葉問派詠春拳 [編集]
最も有名なスタイルに葉問派詠春拳があるが、その極端にコンパクトで直截性を強調した動作は、古いスタイルの詠春拳を意図的に整理、近代化したものであり、詠春拳の全体像から見れば独特なものであって、これが詠春拳の代表的スタイルというわけではない。
葉問系詠春拳は中国伝統武術についてまわる五行、八卦などの東洋思想を否定し、練習者に科学的論理性と徹底した理解を求める教授スタイルで知られ、合理的・実戦的であると言われる。また他の中国武術のような内功、外功といった概念を持たず、呼吸法も自然呼吸である。道教的影響よりも仏教的な色彩が色濃いと言える(外家拳)。武術一般の内功にあたると思われる「内力」という概念があるが、そのための特別な養成法があるわけではなく、正しく練習をしていけば長い間に自然と自覚されていくものとされている。ただし初級套路の小念頭に内功を養う効果があると指導する指導者もいる。実際、小念頭には各種の意念を用いることや、集中力、自然呼吸を重視する点において立禅と共通する要求が多い。
触覚を重視することで、目に頼らずに戦うという考えであるために、周辺の比較的スタイルの近い門派には存在する視力の訓練も存在しない。身体に負荷をかけたり、身体を打ち付けて鍛えるような外功的な訓練も行わなず、力みを極端に嫌い、南方の拳法にある剛強なイメージからは外れた訓練体系であることで知られる。この「無駄なことをしない」という思想は、ジークンドーにも受け継がれている。
このシンプルさゆえに、戦闘理論に関しては非常に厳密な理解と体現を要求されることになるため、評判に反して、実際には非常に習得・体現の難しい武術である。その内容も、時代が下るにつれて、また広く練習されるにつれて、薄められたり、映画のアクション的な動作や他の格闘技術などの影響を受けて改変・補強されてしまったりする傾向にある。葉問詠春拳の本来持っていた徹底したシンプルさと実用を重んじるという特徴は、その学習と理解のしにくさも手伝ってか、徐々に見られにくいものになってきている。また一口に葉問派とは言っても、指導者や道場による内容には想像以上の大きな違いがあることが知られるようになってきている。
葉問派の技術的な特徴としては、黐、貼身ということが上げられる。 また短橋狭馬の拳法の中でも、葉問派はより動作を小さく、直線的にまとめてある。 ただし、第三段階の標指になるとこの特徴は変化する。
最近ではこの葉問派から、より現代的な格闘技法を取り入れたEBMAS(Emin Boztepe Martial Arts System)も生じており、未だ世界的に隆盛を誇る武術門派である。現在でも世界的な普及・発展を続けているが、これは実はブルース・リーの影響ではなく、香港返還による人材の海外流出によるものである。しかし日本においては未だマイナーな一中国武術に過ぎず、また現在でも「詠春拳=ブルース・リー」というイメージが根強い。
その他の詠春拳 [編集]
刨花蓮詠春拳、紅船永春拳、阮奇山詠春拳、岑能詠春拳、彭南永春拳、古労詠春拳(偏身詠春拳)、陳汝棉系永春拳(順徳永春拳)、 越南詠春、馬来西亜永春などの各派があり、その他にも秘密主義を貫いて今も隠され続けている伝承も残っているという。香港返還の影響や華僑の動きによって世界的に伝承が散らばり、本国である中国で途切れた伝承が、海外に残っているような例も存在するようである。非常に多様である。
詠春拳の技術 [編集]
〔オーソドクスな葉問派詠春拳を規準としたもの〕
詠春拳は基本的には短打接近戦の徒手による格闘術体系である。接近戦と手技の細やかさに特徴があり、相手の攻撃を成功させずに、いち早く相手を打倒することを考えて作られており、競技格闘技とは戦闘行為に対する発想が著しく異なっている。
近距離での打撃に対する防御技術が精緻であり、基礎の拳套である小念頭に含まれる技の約8割は防御技である。(ただし防御技・攻撃技と分類のできないものが多い)蹴り技についても同じで、防御的な技のバリエーションが多い。また相手の動向を察知し制御するという点に重点がおかれ、その攻撃技でも防御技でもない技(概念)というものを有している。この二点が武術格闘技としては非常に特徴的になっている。
詠春拳の訓練は、まず拳套によって技のパーツとしての手形と身体構造の運用法の基礎を学び、未精練な筋肉運動の改変を行う。より実践的な応用や、パーツごとに学んだ手法の整合法は対人練習によって学び、訓練する。このため、対人訓練には大きなウェイトが置かれている。黐手(チーサウ/チーサオ)と呼ばれる、お互いの腕を接触した状態で自由攻防する練習によって、様々の応用技術、戦闘理論、歩法、体捌き、位置取りなどを学び、また神経反応の改変と養成、本能的な精神反応の改変、発力方法、運力方法を訓練する。
詠春拳の技術に関する誤解 [編集]
詠春拳というと寸勁(寸打)が有名であるが、詠春拳(または南方拳術)の寸打は独特であり、北方系の拳術の寸勁と同じものとは言えない。また、 詠春拳には裏拳や曲線を描く打撃がないように言われることがあるが、実際には裏拳、フック、アッパー、チョップ、各方向からの肘打ち、更には回し蹴り(に似たもの)までもがある。特にチョップと裏拳は肘技に関連しているのでよく使用される。それらの技術は、特に近代格闘技などから流入したという訳ではない。
日本における詠春拳事情 [編集]
日本で詠春拳といえば、それはおおむね葉問系詠春拳のことである。
70年代のブルース・リーの人気により、日本でも詠春拳を学びたいと考える人が沢山いた。しかし葉問の直弟子全盛の時代には香港まで渡り、または香港人に付いて最終段階である標指まで学ぶことにできたのはごく小数に限られた。理由の一つに「日本人に教えてはならない」という葉問の教えの影響がある。80年代?90年代に日本人でも学べる香港の武館は黄淳梁の武館だけであったとも言われており、この遺言の影響は現在でも残る。この影響により、日本で武館を開くものはまだ数少なく、練習者も少ない。香港人について運良く全伝を学ぶことができても日本で教えてはならないと言い含められてることがあり、今も広範な伝承にはブレーキがかかっている。このことが日本と各国との人気・事情の差となっている。
80年代より川村祐三(徐尚田、姜撓基伝)、台湾出身の錢彦(盧文錦伝)らが中国武術専門誌や書籍、主催する団体を通して詠春拳を日本に紹介してきたが、詠春拳修得そのものの難しさもあって幅広い普及には至っていない。
日本国内で葉問派詠春拳の実像にアクセスできる機会は今もって少なく、標指までの正しい全伝を学べる機会となってはほぼ皆無という状況にある。とりわけ香港系の伝統派に関しては、葉問の遺言がそのまま保たれている状況にある。
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